一般的には馴染みのない制度だと思いますが、
防大には、新入生に対し2年生の教育担当者がつく『対番制度(たいばん)』があります。

独特の言葉なので少し説明をすると、

・対番・・・教えられる側、すなわち1年生のこと

・対番学生・・・教える側、2~3年生のこと

を指しています。

対番学生は、全寮制の防大で生活していく上での色々なことを教えてくれます。

ルールという点では、
食事<配ぜん、片付け>、風呂の入り方<衣類のたたみ方など>に始まり、
日常生活のルールとして、洗濯・裁縫の仕方なども教わります。

防大で着用する制服や作業着は国からの貸与ですから、
裾が余っても切れないんですね。

そこで、自分でちょうど良い長さに縫い上げる必要があるわけです。
*ちなみに防大卒の男子は、概ね女性よりも裁縫が上手です。

そして一番大事な役割。

以前にもご紹介した消灯後の夜ばなしの時間を利用して、
1年生が辛い時には「大丈夫か?辞めたくなってないか?」など、
精神的ケアを担ってくれます。

私の一年生の時の記憶を呼び起こすと、
入学初日に対番学生に引き合わされた後、
校内にある散髪屋さんに直行。

そこで有無を言わさず全員坊主かスポーツ刈りにさせられます。

一般大学なら考えられませんよね?

それから、必要な備品(裁縫道具、爪切り、洗剤など)を
全て対番学生が自腹で買ってくれます。

私の時には、対番学生が運動靴まで買ってくれました。

予想外の出来事だったので、
「対番制度は、なんて過保護なシステムなんだ!」と、
その時は思いましたね。

対番学生と対番は、一蓮托生です。

1年生がミスをした時には、対番学生が「ちゃんと教えたのか!!!」と怒られます。

盾になって守ってくれる対番学生を見て、
1年生は「対番学生に迷惑はかけられない。頭が上がらない。」
という気持ちになるわけです。

私も2年生の時に、1年生を一人担当しました。

しかし2年生になったと言っても、
1年生が行事などで掃除が出来ない時は2年生が代わることになりますし、
すぐに先輩扱いしてもらえるわけではありません。

上級生と認めてもらうための「登竜門」が、4月に行われるカッター訓練です。

責任者の4年生から1ヶ月ほどにわたって厳しい訓練を受け、
10人くらいの手こぎボートを漕ぎ、
大隊別、小隊別に競い合います。

カッター訓練を受けながら、
対番学生として1年生のフォローをしなければならないのは本当に辛かった。。

精神的にも追い込まれて、ギリギリの状態でしたね。

「過保護だ」と思っていた対番制度でしたが、自分が経験してみて初めて、
「2年生の対番学生のほうが辛いんだな」と痛感しました。

対番学生・・・

ルールを教えるのは、この制度がなくても誰でも出来ることでしょう。

重要なのは、1年生をフォローしていくうちに、先輩の自覚が生まれること。

「先輩としての自覚というのは、自己犠牲の精神なんじゃないか」

という気持ちが芽生え始めるのもこの頃です。

カッター訓練が無事に終わると、
ようやく2年生は上級生として認められることになります。

ちなみにこの対番制度。

自衛隊に進み、出世状況によってはお互いの階級が入れ替わることもあるわけですが、
この対番関係だけは変わることがありません。

私は防大を出て一般社会で仕事をしていますが、
対番学生は未だに悩みを相談させてもらえる有り難い存在です。

結婚式のスピーチもお願いさせて頂きましたね。

 

一生続くこの対番関係は、
今の私にとっても、代えがたい精神的支えになってくれています。